Frankfurt P-Wagen (Pt-Wagen / Ptb-Wagen)

Photo by: NITS-Center

基本情報

通称「フランクフルトの万事屋」としても知られるP型ファミリーは、地下鉄でも運用が可能な路面電車車両として開発された。可動式ステップを備え、高床ホームにも低床ホームにも対応できる。のちに作業用車両にも改造され、ありとあらゆることに対応した形式。

製造年:  1972-1978
製造会社: Düwag
製造数:  100
改造年:  1986 (P>Pt) / 1992 (P>Ptb) / 2005 (Pt>At) / 2013 (Ptb>Pt) / 2018 (Ptb>Pt)
廃車:   2007(Pt) / 2016(Ptb) / 2023(Pt)
運用開始: 1974
運用終了: 2016(Ptb) / 2024予定(Pt)
編成両数: 3両編成100本
編成:   A-C-B

台車配列:   B'2'2'B
軌間:     1435mm
全長:     28,72m
車幅:     2,35m (Ptb: 2,58m)
車高:     3,596m
最高運転速度: 80km/h
最高設計速度: 80km/h

利用する際のお得な情報

現在も営業運転についており、ステップの一段が高い高床車両ということもあり乗車には一苦労する。重い荷物を持っている場合やバリアフリーな乗車には後続の列車を使うことをお勧めする(2本続けて到着しないように計画されているので、一本見送ると確実に低床車両が来る)。
中間車には扉がないため、混雑時で降車停留所が小規模な場合はドア付近の着席をお勧めする。

製造経緯と歴史

1974年に開業する新規地下鉄線に先立って、低床ホームと高床ホームの両方に対応できる車両の導入が検討された。稼働ステップを備え付けて必要条件をクリアしたのが当形式となる。
計画当初はP8型と呼ばれていた。また、後述の通りステップが固定のP型が導入されるまでは1次車のPt型がP型として扱われていた。tはTunnel(トンネル)を意味しており、地下鉄ホーム対応している編成を指す。1998年にU2型U3型などの幅が広い車両と線路を共有することになった際に稼働ステップが外寄りに移設されたものがPtb型と名付けられた。この際、bはBreit(拡幅)を意味する。
フランクフルトの路面電車系列では初めてワンハンドルマスコンとなった。ほかの市電車両と比べて角ばったデザインとなり、前面の6角形の窓も印象的となった。

車両構造

車内の一角。シートは赤い革製のもの。各ボックスに小さなテーブルがついている。Photo by: NITS-Center

1編成は先頭車・中間車・先頭車の3部分で成り立っており、連接台車でつながっているためこれが最小の組み合わせとなる。両先頭車は構造上は同じ。パンタグラフは中間車の屋根上にあり、編成によって菱形パンタグラフとY型パンタグラフのどちらかが搭載されている。搬入当初からY型のものもいれば、改造や予備パーツ不足でY型に換装されたものもいるが、逆に菱形に換装されたものもいたため、パンタグラフでは一概に分類できない。
車内の座席配置は2+1の非対称な構造となっている(先頭車の連接部分よりの席は1+1)。

前面形状。線対称な奇麗なフォルムのために運転手の視界が犠牲となった。Photo by: NITS-Center

運転席は比較的狭く、座席はほぼ真ん中に配置されている。加減速はマスコンで行うが、その他の操作はボタン操作で行うため、シンプルな構造にはなっている。計器類も同じ盤に組み込まれている。
フロント部分は2枚のガラスを組み合わせたV字型となっている。ガラスとガラスの間は支えがなく強化ボンドで接着するため、車両や取り換え時の作業員の正確さによっては左右で角度が多少違うこともあり、斜視になる被害も少なくなかったという。それに加え、一世代前のO型と制御方法が全く異なることから、導入当初は運転手には不人気だったという。
また、搬入当初の運転席の暖房の利きが悪かったため、後に床部分に鉄板が追加された。電気で熱して温める方式だが、強力すぎたためゴム製の靴底が溶けて付着する事案なども報告されている。

2009年の記録。3編成連結はレアだったため自分も記録が少ない。Photo by: NITS-Center

同形式で最大3編成まで連結して運用することができる。道路交通法の関係上、路上を走行する列車は75m以下に収める必要があったため、市電やU5号線では2編成連結が限界であった。極めてレアではあったが、路上を走らない地下鉄では3編成連結も少なからず見ることができた。
フランクフルトの車両で唯一、地下鉄と市電の両方の路線番号を表示できる。行先部分は幾度か更新されたが、路線番号の幕はしばらく更新されていないため、現存しない路線番号も表示できる(当時存在しなかったU9号線などもなぜか早くから収録されていた)。行先表示も更新のたびに増えていっただけなので、こちらも入線経験のない行先や廃止された行先が収録されている。保存会で当形式で臨時が行われるたびに幕回しで遊ぶことが参加者の醍醐味となりつつある。

改造

At型に改造された2050号編成。クリックで拡大 Photo by: NITS-Center

2005年から訓練車と使用されていた664号編成だったが、2013年に冬季の雪掻き・融雪車へ改造された。作業車となったため、形式がAt型に変更されたうえ、車番が2050号編成に変わった。スノープラウが増設されたほか、融氷液を塗布するためのパンタグラフが増設された。既存のパンタグラフも氷柱カッターとして使用するために強化された。
普段は夜間作業のみで出庫するため、日中に見ることは滅多にない。フランクフルトの車両では最もレアな車両とされている。

各仕様の違い

P-Wagen

2次車にあたる681号編成から716号編成及び3次車にあたる717号編成から750号編成はPt型とは違い、O型などでも見られた固定ステップで搬入された。そのため、当形式の車両は路面電車区間のみで運用された。稼働ステップではなかったため、扉も車体の裾部分まで伸びていた。
1986年の地下鉄線開業に伴い、724号編成から750号編成がPt型に改造された。残る681号編成から723号編成も1992年の地下鉄線延伸とともにPt型に改造されたため、形式消滅となった。

Pt-Wagen

Pt型で別形式の甲種輸送を行うこともある。クリックで拡大 Photo by: NITS-Center

1次車にあたる651号編成から680号編成、後に改造や再改造された編成が該当。扉部分に稼働ステップがついており、路面電車の低床ホームにも停車できるほか、開業当時の地下鉄ホームにも対応できた。
地下鉄ホームの車幅対応工事に伴い、1998年以降に692号編成から750号編成がPtb型に改造された。
路面電車の車両不足に伴い、2013年から2018年にかけてPtb型がPt型に再改造された。
当系列では唯一現存する仕様。バリアフリー化の関係上、2023年12月に営業運転から退く予定。

Ptb-Wagen

電停に停車中のPtb型。道路が停留所の駅もあった。クリックで拡大 Photo by: NITS-Center

30cmほど幅が広いU2型U3型と同じ路線を走行可能にするため、ドア部分の稼働ステップを外寄りに移設した改造車。692号編成から750号編成が対象で、1998年以降に改造された。同時に、一夜にして各地下鉄駅のホームも幅の広い車両に合わせて改造された。それ以来、幅の狭いままのPt型は営業運転で地下鉄駅に停車することはできなくなった(車両とホームの隙間が大きすぎるため)。
稼働ステップの方式がPt型のものとは多少違うため、小さなバグが存在した。
地下鉄路線から低床ホームが無くなった2016年に置き換えられ、形式消滅となった。現在は数編成が休車のまま放置されている。

特殊編成

一部編成は窓部分を含めた全面広告ラッピングや窓下の部分のみを使った広告ラッピングをまとっている編成が複数存在する。頻繁に変わるため、すべてのバリエーションを掲載するのは難しいので、広告ではないものの特別なデザインになっているもののみ紹介する。

記念日早朝ギリギリに仕上がったラッピング。連接部分の黄色の由来は不明。クリックで拡大 Photo by: NITS-Center

市電150周年記念 (749号編成)

フランクフルト市電150周年を記念して、749号編成に特別ラッピングが施された。運用開始は2022年5月18日で、特にイベントなどもなく初日から通常運用に就いた(写真)。
2023年8月27日に剥がされ、原色に戻された。

Impf-Express/ワクチントラム (720号編成/736号編成)

ワクチン接種率を高めるために行われたキャンペーン。2021年10月後半に行われ、IE1とIE2の2路線が設けられた(運用番号は19号線扱い)。各停留所に停車している間に注射を打ち、医者と運転手が連絡を取り合いながら運転されたため注射の数が多いほど遅延した(走行中は安全対策の関係上打てないため)。
キャンペーンが終わった後もラッピングを少し変更し、ワクチン接種推進のラッピング編成となり通常営業運転に戻った。

ワクチン接種キャンペーンが終わった後もPRのために広告が継続されている。クリックで拡大 Photo by: NITS-Center

在籍状況

保存車3編成はすべて登場当時のカラーリングをまとっている。クリックで拡大 Photo by: NITS-Center

P型及びPtb型は2022年現在すべて引退しており、P形においては形式消滅、Ptb型は数編成が解体待ちの休車状態となっている。Pt型は下記の通り現在でも運用に就くため、720、727、736、749の以上4編成が稼働している。また、元728、738、748は3編成とも保存車となり、128、138、148にそれぞれ改番されている。すべて動態保存のため、イベントなどでも乗車することができる。
保存車も下記の運用に就くため、また原色の4編成のうち3編成がラッピングされているため、広告なしの原色編成は7分の1という極めてレアな確率となっている。

2007年には25編成がトルコのGaziantepに売却された。2010年には11編成がポーランドのKatowiceに売却された。両都市で改造されたうえで運用されている。

運用情報

Stresemannalleeでの並び。ダイヤが少しずれると3並びも撮影できる。Photo by: NITS-Center

2022年12月中旬からのダイヤでは、15号線17号線18号線の一部運用がPt型で運用される。このダイヤ改正では今まで平日限定運用だったものが土曜日にも運用されるようになった。車両の都合上、全車稼働の場合もあったり全運用がほかの形式で運用される場合もある。保存車3編成も通常営業運転についている。
バリアフリーではないため、Pt型の入る運用は停留所やネットで公開されている時刻表に"HF"とマークされているので、通常車と見分けがつく。

フランクフルトでサッカーの試合が行われる際、一部の日程では臨時便が運行されることもあり、スタジアム臨時の20号線では重連運用だった。この際は15号線、17号線、18号線の3路線から引き抜かれ、車庫で連結したうえで運用に入っていた。2023年から、20号線はS-Wagenの限定運用となったため、重連運用はない。代わりに、サッカーの日程には確実に15号線、17号線、18号線の運用に入る。

サッカー臨時の重連。営業車と保存車が連結することもある。Photo by: NITS-Center
Ptb同士のすれ違い。Photo by: NITS-Center

過去の運用は市電路線だけでなく、地下鉄路線でも存在した。Ptb型は低床ホームと高床ホームが混在するU5号線とU6号線を中心に運用されたが、極稀にU4号線やU7号線でも運用された。車両長や扉配置の違いや、他の地下鉄車と比べて30cm程狭い車両構造の影響で2010年代半ばに一気に運用が減り、最後まで低床ホームが存在したU5号線のみで運用されるようになった。同路線の工事完了に伴い、Ptb型は完全引退となった。

情報ソース

・フランクフルト市電保存会
・元運転手だった同僚
・VGF, "Frankfurter U-Bahn: Rückgrat der Mainmetropole", 2018, Zarbock GmbH & Co. KG
・VGF, "Die Elektrische: Unterwegs in Frankfurt", 2018, Druck- und Verlagshaus Zarbock GmbH & Co. KG
・VGF, "Mobilität für Frankfurt: 50 Jahre moderner Nahverkehr", 2018, Societäts-Verlag, ISBN 978-3-95542-320-9

関連形式

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