重要な都市の大動脈となっているS-Bahn。定時運転の信頼性はいかほどに。2023年10月撮影

ドイツのS-Bahnの定時性を比較してみる

大都市では通勤や通学の足となり、重要な役割を担うS-Bahn。地域によっては様々な違いがあるシステム、遅延にどれほどの影響を及ぼすのか。

2024年2月中旬に、一部の地域の遅延に関する統計が発表された。各所新聞社がそれぞれの地域に特化して書き上げる記事や公式の情報をもとに、ネット上に掲載されている数値を一つの表にまとめてみた。

すべてではないものの、一部地域の数値を比べてみる。2024年2月14日現在の統計。

数値化したのは、S-Bahnとして扱われ、近距離列車からの編入でないもののみピックしている。そのため、ロストックやニュルンベルグなどのS-BahnやブレーメンのRegio S-Bahn などは含まれない。当テーブルで数値化されている「定時」とは、時刻表に掲載されている時間から6分未満の遅延を定時とみなす。

表を見てみると、基本的に定時率が下がっていることが一目見てわかる。ほとんどの地域では、2020年がピークだったことも比較すると分かる。

システムの違いに着眼

定時率を常に95%以上で保っているベルリンとハンブルグは、ともに「第三軌条」と言って、車両の上からではなく線路の横にある3本目の線路から電気を引っ張っている(ハンブルグ市外の一部区間を除く)。これが何を意味するかというと、他のICEや近距離列車は同じ線路を走れないということであり、S-Bahnが単体で線路を持つことによってほかの列車による影響を受けずに遅延しにくくなるというメリットがあること。

対してMitteldeutschlandは普通のシステムであるほか、貨物列車などが頻繁に走行する区間なども走っているため、ここまで定時を保てるのは正直謎めいた部分もあるが、そもそも走行本数が少ないのと、ダイヤにかなりの余裕があることが理由であろう。

ベルリンのS-Bahn。線路の横に白いカバーがされたレールから電気が流れる。2022年9月撮影
Stuttgartなどの通常S-Bahn。一部区間でほかの列車と線路を共用する。2021年6月撮影

ではほかの地域はどうだろうか。シュツットガルトやフランクフルトは主に市内区間にてS-Bahn単独の線路があり、他の列車が入らない区間はある。しかし郊外方面に向けて数駅乗ってみると、いきなりたくさんの線路と合流したり別れたりを繰り返す光景は乗車されている人には見慣れているだろう。特に合流場所の手前で止まったりして、隣の線路を別の列車が高速で通過して行く風景なども日常と言えるだろう。

ほかの列車の遅延によって、S-Bahnが遅延。その遅延を引きずって、ほかのS-Bahnまで遅延し始める。負の連鎖はこうして始まり、下手すると区間運休や減便などにつながってしまう。

では2020年に比べて、ここ4年間でなにが大きく変わり、なぜこれほど悪化したのか。理由はもちろん一つではない。大きく分けると原因は3つある。それに加えて、利用者増加による乗降時間の延長や各種妨害なども響いてくる。特にこの7年で大幅に増えたのが「線路内立ち入りによる区間封鎖」であって、乗務員だけでなく、警察までも困らせている案件。過去にはXにてとある動画を紹介したが、このような事件が日常的に発生してしまっていることもある。また、高騰している金属の値段が影響し、通信ケーブルや線路部品などの盗難も大きな問題となっている。特に盗難被害が出た区間は、だいたい一日では復旧できない悪質な妨害でもある。

さて、先述した3つの大きな原因を一つずつ解説してみよう。

インフラのキャパシティが限界を迎えている現在

まず最初に上げられるのは、インフラのキャパシティが限界を迎えているということ。十数年に渡って、鉄道のインフラに割り当てられた金額は全くと言っていい程足りておらず、長年に渡って十分な保守が行われなかった。少ない金額では整備できる範囲も少ないため、全てにおいて限界まで置き換えない整備を続けた結果、今となって各地でガタが来ている。特に忘れてはいけないのは、2022年6月に発生した、ドイツ南部の脱線事故。こちらは事故が発生する前の段階で線路を支える枕木の状態がよろしくないと現場で判断されていたが、管理部門が状況を甘く見たのか、置き換えが先延ばしにされた結果だった。

加えて、近年では再度補助金などの額が増えたものの、過去に整備されなかった区間が多すぎるため、新たなるプロジェクトを賄う余裕が少なく、ボトルネックとなっている区間の拡張などがなかなか進まない。

環境問題に対抗すべく、貨物の輸送が道路から線路に移行が進んでいるが、これも実は大きな時限爆弾でもある。鉄道では荷物を常に最終目的地まで運ぶことはできないかもしれないが、トラック一台で運べる量と貨物列車一本で運べる量は段違いで、鉄道での輸送は確実に効率が良い。しかしながら、物流を鉄道に移行し続け貨物列車が以前と比べてかなり増えたのは良いが、線路の容量は限られているため、一部路線ではこれ以上列車本数を増やせない状況にもなっている。貨物列車だけでなく、各地域にて旅客列車の本数も大幅に増加したこともあり、新線を作らない限りはドイツ国内の線路ネットワークがパンクしてしまう。また、列車の本数が多ければ多いほど、保守の頻度も高くなるため、ある意味「負のスパイラル」と言っても過言ではない状況でもある。

環境に優しい輸送をアピールする国際貨物機関車。2022年8月撮影

車両のキャパシティも厳しい状況

ラッシュ時間帯では本数が増やされたり、車両数がほかの時間帯より増えたりしている。フランクフルトを例として挙げると、最長で12両編成の運転が各路線で最大15分毎に走っており、中央駅や市内の重要な区間はおよそ2分に一本も列車が発着する。日中でも基本的に15分毎に8両編成の列車が走る。かつて日中は30分毎に4両編成の列車が来ていた2000年代前半と比べると大幅に違う。

ただ、これだけ車両の数を増やしても、今では足りないくらいの混雑だったりする。2010年代に企業向けのJobticketなどが提供された時期に利用者が大幅に増えたが、特に9€チケットDeutschland-Ticketが導入されてからはまた一段と増えた。スマートフォンの普及によって切符の購入などの小さいながら極めて重要な部分でもハードルが下がり、公共交通機関もあるべき「モバイル」な姿となりつつある。

一本の列車で輸送できる人数を限界まで増やしても収まりきらず、ドアを閉めることができないために遅延したり、過乗車によって出発できなかったりといった問題が発生する。9€チケットシーズンの夏休みは特に大変で、ホームが完全に封鎖されたり、警察介入などで遅延が多発した。ともにDeutschland-Ticketが導入されてからもほぼ毎週発生している。

ベルリンは8両編成が限界。システム面やホーム長などが関係する。2022年9月撮影

これ以上車両を増やすことができない地域はフランクフルトに限らず、ドイツ全域の問題でもある。特に車庫のスペースが足りないのは大きな問題点だが、これ以上ホームを延長できなかったり、列車の連結両数を増やせなかったりという問題もある。本数を増やすという点に関しては過去数年にわたってきてほぼ毎年行われていたが、先述の通りインフラのリミットに到達しかけているという点、そして後述の人員不足の問題からすると今後は解決策にはならないだろう。

また、車両を増やしたところで、保守できる人がいなければ追加の車両もむしろ邪魔になってしまう。昨今の人員不足は運転手部門も大変ではあるが、工場の整備部門がより深刻だったりする。

減るだけで増えない、各部門の人員

以前から定期的に報じてきた、各地の人員不足問題。現在ではおよそ17地域にて、人員不足による減便ダイヤが組まれている。その以外の地域でも、頻繁に運休を見るようになった。

定年退職に関しては、すでに前もって対策を練ることができる話ではあった。実際に、対策を取らなかった鉄道企業はかなり大変なことになっている。しかし、コロナ禍に関しては誰も予知することはできなかっただろう。病気にかかってしまい亡くなってしまった人もいたり、病欠となる人も増えた。厳重対策も解除されたあとでも、病欠による人員不足は後を絶たない。長期的な人員不足に加え、このような突発的な欠員も運行に支障を出す。

表示される4本中3本が運休のDuisburgの一コマ。2023年8月撮影

運休を防ぐため、他に待機している運転手が残業などを行い運転することもあるが、運転時間は法律的に制限されているため、全ての運休を防ぐこともできない。列車出発の時刻ギリギリまで頑張って代わりの運転手を探すことなどもしばしばあるが、見つからない場合には急遽運休になったり、運転手が到着するまで列車が動けないなどの障害が発生する。このような変わった遅延の発生も最近では増えてしまった。

改善の見込みは絶望的

では上記3点をこの先数年で解決できるかと言ったら、答えはノー一択である。少子化問題も少なからず影響しているが、人員が数年前ほどの数に戻ることは決してない。車両数も増やしてもあまり効果が無いことは上記の通りであり、唯一残る可能性はインフラの改善。

しかし、2024年の初頭からすでに、鉄道関連のプロジェクトに関する補助金や資金が予定より大幅に下回ったと発表されたあげく、一時期は新線開発プロジェクトにかけるお金が無いと報道されるまで問題視された。後にDBはプロジェクト凍結などの報道を否定し、予定されていたプロジェクトはこのまま続けると発表したが、一部プロジェクトの終了時期がずれ込む可能性があると示唆。この通りでは、劇的な改善は当分は見込めないのはあからさまだろう。

ネックとなっている3つの問題、全てにおいて改善は見込まれず、明るい未来は見えない。もしかしたら、列車が時間通りに動き、何のトラブルもなくスムーズに目的地に着ける時代のピークはすでに過ぎてしまったのかもしれない。

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