労働組合との交渉が進まないDB。今後の影響は...? 2019年11月撮影

ストライキの隠されたとある条件

幾度とニュースの速報に上がってきては、利用者の方々は通勤や旅行の計画変更に追い込まれる昨今。DBのみが交渉成立していない現在、驚くような条件が隠されていることが発覚した。

※当ホームページ責任者はどの鉄道会社とも、どの労働組合とも取引を行っていない中立的な立場からの発信を行っています。本来の業務は公共交通局関連であり、間違えられがちなDBの社員でもありません。

ストライキはなぜ起きるのか。ストライキの仕組みはこちらのコラムにて紹介しております。下記のトピックを正しく理解するために、事前にコラム「ストライキが起きる背景」を先に読まれることをお勧めします。

本線系統の運転手を中心とする労働組合GDL。2023年11月から続くドイツ国内の鉄道事業者各所との交渉は順調に進み、4ヵ月経った2024年3月現在となってはついにDBのみとなった。つまり、他の28社とはほぼ同様の条件での交渉が成立している。DBほどではないが、Transdev社も比較的最近まで渋っており、1月中旬までは社員のストライキにより損害が発生していた。

では軽く、市内交通方面を見てみる。労働組合のVerdiは一部の地域ではすでに合意に至っているものの、GDLと大きな違いがある。Verdiは地域ごとに違った交渉を行っているのだ。例を挙げると、最新で交渉が成立した、Mainzを中心とするRheinland-Pfalzの組合では週末及び祝日シフトの賃金増加が交渉の中心となっていたが、合意に至っていないベルリンの組合では賃金ではなく折り返し地点での休憩時間延長がメインの交渉内容となっている。地域ごとによって交渉が成立する速度は、それぞれの内容にもよると思われる。

本線系統の鉄道会社をストライキしているGDLでは地域ごとではなく、会社ごとで条件が多少異なった。詳しい交渉内容は労働組合と鉄道会社のみ知るものとはいえ、内容の違いは誤差だという。なぜ28社も合意に至っているのに、DBだけこれほど渋っているのか。当方も先ほど初めて知った、とある隠れた条件文が大きな壁となっている可能性がある。

「他社の交渉で同条件での合意が得られなかった場合、この交渉は無効となる。」

この条件文の後半は、すでに合意した会社を含め全ての交渉のやり直しを意味する。では前半は? 現在交渉が成立していないのはDBだけだが、逆にDBが受け入れてしまうと、他の28社にも影響が出てしまうということだ。

これの何が問題なのか。一度、労働組合が訴えている要望をまとめてみるとする。細かい内容を省くと、大きく分けて5つの条件があり、大幅な賃金アップ(時給及び日本で言うボーナス)に関する項目が三つと労働環境の改善の項目が二つだ。特に後者では週35時間労働を目指しており、今回の交渉の中心となっている。連続勤務は5日までとし、48時間の休息を義務付けるというのも新しい。

特にこの分野の専門知識がない人が見ても、無茶な要求だとは一目瞭然である。特に人員不足が大きな問題となっている中、労働時間の減少と賃金アップを同時に行うのは一部の小さな鉄道会社にとっては倒産にまで至る大きなリスクともなりうる。実際に現状の労働環境と賃金体制はまったくもって魅力的ではないから、なかなか新たな人材が見つからないので労働組合側の意図は大いに理解できるが、現実的かと聞かれれば首を横に振るしかない。

現在合意した鉄道会社は、なぜこのような条件を含んだ要望を呑んだのか。これは鉄道会社によって意見が大きく二つに分かれる。

片方に、人員不足の解消を目指すべく未来に向けて投資しようとする会社がある。鉄道という重要な役割を果たすインフラを疎かにしていけないことを理解している会社は、支出が多くなろうとも条件を呑んだであろう。実際、人員不足による列車の運休はペナルティも発生し、これが一部地域ではシャレにならないほどの額となっている。繰り返し運休となると、運行会社にとって合計の罰則額がかなり痛い。とある鉄道会社は大まかな計算を行い、その赤字を毎度支払うより人員の給料を上げるほうが安く済むとまで発言している。

しかしもう片方に、例の条件文に賭けて条件を呑んだ会社もある。会社の名前を伏せるが、「ずっとストライキされるよりは一旦合意しておいたほうがマシだ」と発言しているところもある。ではそのような会社は何を期待しているのか。まず、早期に合意したことによって、ストライキを回避でき、ストライキによる運休ペナルティを支払わずに済む。仮に交渉が無効となり再交渉が必要となっても、それまでの間ストライキを完全に回避できるのだ。交渉が成立したらすべての条件を呑む必要はあるが、今後の人員確保にとっては有利にはなる。

DBがなぜ、これほど渋っているのか。もちろん上記の通り、交渉内容がかなりハードルが高いのも理由だが、いざ呑んでしまうと一斉に業界全体に影響が出るからでもある。もちろん労働時間削減の条件は即座に有効になるわけでもなく、数年に渡って段階的に減らしていく形とはなるが、それと同時に不足分を補うための人材が確保できるのかが大きな課題点となる。この点に関しては逆に小さい企業が有利で、DBほど大きな会社にとっては最も不利となるため、これもまた渋っている理由の一つであろう。

労働条件の改善に消極的なDB、ハードル高い条件を一切緩和しようとしないGDL。お互い少しばかり歩み寄っても良いだろうが、GDLが緩和しすぎると全ての交渉がやり直しとなるし、DBが歩み寄ればGDLもより一層強気にすべての条件を突き通そうとする。利用者たちが両社の戦いに巻き込まれてから早くも4ヵ月経つが、果たしてこのいつまで続くのだろうか。

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