BR609.0 (LHB VT 2E)

BR609 / LHB VT 2E HLB / FKE / VHT VT/VS 2E

基本情報

通称「VT 2E」と呼ばれるユニット気動車は、1976年から1993年にかけてLinke-Hofmann-Busch (LHB/現Alstom)で67編成製造された。当形式のライセンス車として、オーストリーのSimmering-Graz-Pauker(SGP)製のVT70が挙げられる。2020年代前半まで走行しているが、予備パーツ不足や車両構造による故障で徐々に置き換えが進んでいる。
主にローカル線や末端区間での運用を中心に製造されたため、初期に製造された車両の最高速度は低めに設定されている。同時期に別の会社から製造された同様の車両としてはBR627/628やNE81などが挙げられる。特にBR628は性能が良く、挙げた3形式の中で最も優れていたため、NE81並びにVT2Eの製造数は比較的少数にとどまった。

製造年:  1976 - 1993
製造会社: LHB, SGP
製造数:  67 (AKN VTE: 16, VTA: 18, HLB: 9, VHT: 11, SGP: 13)
改造年:  HLB / VHT: 2006 - 2007
廃車:   2011~
運用開始: 1976
運用終了: 2011~
編成両数: 2両編成67本
編成:   Mc-Tc

台車配列:   Bo'2'Bo
軌間:     1435mm
全長:     VTE: 30.13m; VTA, HLB, VHT: 32.62m; SGP: 30.18m
車幅:     VTE, SGP: 2.93m; VTA, HLB, VHT: 3.033m
車高:     3.55m
最高運転速度: VTE: 80km/h; HLB, VHT: 100km/h; VTA: 105km/h, SGP: 90km/h
最高設計速度: VTE: 88km/h; HLB, VHT: 100km/h; VTA: 105km/h, SGP: 90km/h

利用する際のお得な情報

モーター車側は音がうるさいので、騒音が苦手な方や複数人で会話をしたい際には付随車のほうがおすすめ。なお気温的には夏場は付随車、冬場はモーター車をおすすめする。
入り口部分は固定ステップが2段あり、スロープなども備わっていないため、バリアフリーではない。
RealTrainModでも利用可能。詳しくはこちら

製造経緯と歴史

1970年代半ば、AKNの車両更新にあたってLHBと新型車両の開発がスタート。同じくLHB製造のハンブルグ地下鉄のDT2/DT3及びドイツ国鉄のBR627の構造を参考に、AKNの路線に企画を合わせる形で作られたのが当系列の最初のVTEとなる。
のちに製造される車両は、発注先の路線に合わせたモーター出力や車内構造などに変更点があり、同形式でありながらそれぞれかなり異なる。
・1976/1977年: AKN向けのVTEが16編成落成。
・1980/1986年: GKE向けのVT70がSGPにより13編成落成。
・1987年: FKE(現HLB)向けのVT/VS2Eが8編成落成。
・1992年: FKE(現HLB)向けのVT/VS2Eが1編成、VHT向けが12編成落成。
・1993年: AKN向けのVTAが18編成落成。うち、8編成は第三軌条パンタグラフが設置されている。
・2011-2013年: GKEのVT70が置き換えにより引退。当初予定されていたポーランドへの売却は行われず、全車解体。
・2015年: AKNのVTEが置き換えにより引退。5編成が保存用として残る。
・2020年: HLBの一部のVT/VS2Eの解体が始まる。
・2022年: HLBとVHTのVT/VS2Eはダイヤ改正で水素車に置き換えられ、全車引退。
・2023年: HLBとVHTのVT/VS2Eがルーマニアへ売却。VHTのうち2本は保存会に売却され、ドイツに残り臨時運転を行う予定。
・2025年: ハンブルグS-BahnのS21号線の延伸開業によってAKNのVTAが完全引退予定。

車両構造

全車共通に2両1編成で、車両同士は電磁吸着ブレーキの備わった連接台車でつながっているため、切り離すことはできない。外釣り両開き扉が各車両2か所に設置されており、ドアボタンで開けることができる。冬場の車内暖房の効率を上げるため、車内のドア横には閉めるためのドアボタンも備わっている。運転室からの一斉制御は閉めるときのみ可能。出発準備の簡易化のため、扉開放している間は運転席に備わっているバックミラーが開く。時速8kmで自動的にドアロックされる。それ以下ではドア操作が解放されている限りは扉を開くことができる。圧縮空気式の扉のため、開閉時は勢いよくスライドする。センサー類はついていないため、駆け込み乗車などでドアに挟まるとけがを負う可能性も低くはない。再開閉は割と固いドアボタンを自分で操作する必要があるため、この形式での駆け込み乗車はドイツ国内の車両では最もお勧めしない。

第三軌条パンタグラフを使ってS-Bahnに乗り入れるAKNのVTA。クリックで拡大 Photo by: NITS-Center

1993年に導入されたAKNのVTAの8編成には、ディーゼル車でありながら第三軌条パンタグラフが設置されている。これは、ハンブルグのS-Bahnに乗り入れをするためで、2022年現在でも朝の通勤時間帯に2運用が中央駅まで乗り入れている。現在のルートは開始当時とは違って全区間地上を走るものの、一時期トンネルを走る運用もあったため、トンネル内排気ガスを避けるために設置されたもの。架空線パンタグラフがついたディーゼル車はいくつかあるものの、第三軌条パンタグラフを設置した旅客運用に入るディーゼル車はドイツではこの形式だけである。

VHT向けのインテリアデザインスケッチ。2006年の車内更新で消滅。クリックで拡大
現在のVT/VS2Eの車内。クリックで拡大 Photo by: NITS-Center
現在のVTAの車内。クリックで拡大 Photo by: NITS-Center
VT/VS 2E の運転席。クリックで拡大 Photo by: NITS-Center

両端の台車には砂撒き装置と塗油装置が設置されており、運転手のボタン操作によって制御できる。自動制御機能はない。

床の高さは入り口部分が960mmで、ステップ2段上った室内が1220mmとなっている。

冷房は設置されておらず、暖房はモーター、冷却水とブレーキの排熱によるもの。ドアステップ付近の通風孔から流れるようになっており、車内の温度計によって自動制御されている。後年になって、温度計の故障が増え、夏場でも暖房がつくこともしばしばあるが、運転手は暖房系統の操作が一切できないため、窓を開けるほかに冷却の手段はない。なお、運転開始当初は暖房の利きが悪かったため、のちに追加の暖房設備が設置されている車両もある。

改造

旧塗装を再現した3Dモデル。クリックで拡大 3D-Model by: NITS-Norway / Photo by: NITS-Center

塗装変更やVTEがモーターの交換を行った以外は、大きな改造を行ったのはVT/VS 2E系列のみ。
VT/VS 2Eは2006年から2007年にかけて、全面更新を行った際に車内を同路線を走るLINT41と共通化し、塗装を朱色とクリームからHLBの会社カラーでもある黄色主体のものに変更。同時に行先表示をLEDに変更したものの、後に製造会社が倒産して消滅したうえ、表示器のプログラミングができる人が工場にいないため、行先は設置工事が行われた当初から変更できず今に至る。故障したものに至っては運転台と前面窓の間にサボを設置するほかの手段がない。

各仕様の違い

VTE (AKN)

BayernBahnに移籍したのち、側線に留置されたままのVTE。クリックで拡大 Photo by: NITS-Center

当車両ファミリーで最初に作られた16編成から成り立つグループ。30,13mで側面はビート構造。設計最高速度は時速88kmで、実際は時速80kmで最大4編成連結して営業運転を行っていた。後述の車両とは違い、各車両にモーターを一基ずつ積んでおり、導入当初は228kW出力のMAN D 3256 BTYUEが2基、更新後にはCummins M11で242kW出力のモーターを2基搭載していた。
16編成導入された中、トップナンバーのVT2.31とVT2.42が1994年に衝突して破損したため、損傷具合の低い半分ずつを組み合わせてVT2.42(2代目)に組み替えた。
VTAが導入された1993年以降は、連結器のピンを調整したうえで両形式の連結もできるようになった。
引退後は2編成がBayernBahn、2編成がAscherslebener Verkehrsgesellschaft、1編成がNebenbahn Staßfurt-Egelnに保存目的で移籍。現在は後者3編成もBayernBahnに再度移籍している。

VT/VS 2E (FKE/HLB/VHT)

タウナス地方の鉄道を支えてきたVT/VS 2E。クリックで拡大 Photo by: NITS-Center
仮修理を終え、回送されていくVT9。クリックで拡大 Photo by: NITS-Center

筆者の管轄下にある、1987年及び1992年製造のVT/VS 2E。1編成は32,62mの長さで、最高速度は時速100kmに設定されている。山岳路線を走るため、モーターも485kWと出力の高いDaimler-Benz OM 444 LAを搭載している。モーターの設置されている制御車をVT、設置されていないほうの付随車をVSと呼ぶことから、VT/VSの名前がつく。モーター車は勾配区間ではかなりうるさく、車内は普通の音量では会話ができないほど。
こちらも最大4編成を連結することができるが、走行する路線のホーム有効長が足りないため現在は最大3両編成で運行されている。
1次車にあたるVT1からVT8の8編成は運転席後ろの扉が普通の扉であり、2次車にあたるVT9及びVT11からVT21の12編成は引き戸になっている。運転台の配置や配管がかすかに違う以外はすべて同じである。
導入に至ってはNE81、BR628及びÖBB5047の3形式も検討されたが、当時のAKNでの成功が功を奏したことで、当形式の導入が決まった。2次車の導入に至っては、メーカー側が発注側の要望であった11編成を受け付けなかったため、やむなく12編成を導入することになった。
2022年に入り、2年ほど休車されていたVT5、VT7とVT8が廃車解体された。VT8はしばらくの間部品供給のために工場内に置かれていた。解体されていく車両もいる中、2022年にも全検が行われた車両が数編成いる。
VT9は2022年の2月に新たに全検を受けた車両ではあるものの、1週間後には倒木との衝突で大破し、以後休車となっていた。2022年11月15日に大破した部分が仮に修理され、ルーマニア方面へ回送された。
水素車によって置き換えられるため、2022年12月のダイヤ改正で営業運転を終了。

VTA (AKN)

出発待ちにAKNの表示をするVTA。クリックで拡大 Photo by: NITS-Center

VT/VS 2Eをベースに作られたVTA。車体構造もビートがなくなったこと以外は同じで、VT2.51からVT2.68の18編成が製造された。
最高時速は105kmに設定されているものの、VTEと連結する際には自動的に80kmに制限される。
先述の通り、VT2.51からVT2.57及びVT2.68の8編成は第三軌条パンタグラフも設置されており、S-Bahnに乗り入れることができる。
2022年現在でも現役で、2025年に予定されているS21延伸工事完了まで在籍予定。

在籍状況

解体途中のVT5だったもの。クリックで拡大 Photo by: NITS-Center

2022年12月現在
・VTEは保存車が動態保存で5本
・VT70は全車廃車済み
・VT/VS 2Eは1次車が5本がルーマニアへ売却、3本解体済み、2次車は本が保存会へ売却、9本がルーマニアへ売却
・VTAは全車稼働中
となっており、VT/VS 2Eの2次車から2本の保存車が予定されている。
AKNの担当者曰く、VTAは予備パーツがなくなり次第部品取りに回す編成が出る可能性が高いとのこと。

運用情報

営業運転最終日には特別サボを提げての運行となった。クリックで拡大 Photo by: NITS-Center

2022年12月現在、以下の路線で運行されている。
・VTA: AKN A1 Hamburg-Hauptbahnhof - Eidelstedt - Ulzburg - Neumünster (~2025/12)
・VTA: AKN A2 Kaltenkirchen - Ulzburg Süd - Norderstedt Mitte (~2025/12)
・VTA: AKN A3 Ulzburg Süd - Elmshorn (~2025/12)

VT/VS 2E は2022年12月のダイヤ改正にて営業運転を終了した。最終日に営業についた車両は当グループNITStrainによるラストランサボと、Taunusbahnの象徴でもあるTのサインのリバイバルサボを提げて運行した。(Twitterリンク)

情報ソース

・業務上の知識
・AKNホームページ: https://www.akn.de/ 最終閲覧:2022/11/21