BR554 (Alstom iLINT)

BR554 Coradia iLINT Alstom / Wasserstoffzug

基本情報

通称「iLINT」と呼ばれるBR554は、Alstom製の初の水素車両となる。既存のLINTプラットホームをベースに、エネルギー源を変えたものとなる。現在製造された水素車両では世界で最も数の多いファミリーとなる。量産先行車でもあるプロトタイプの2編成はBR654ではあるが、こちらにて紹介する。

製造年:  2018 (BR654) / 2021-2022 (BR554)
製造会社: Alstom
製造数:  2 (BR654) / 14 (BR554.0) / 27 (BR554.1)
改造年:  -
廃車:   -
運用開始: 2018 (BR654) / 2022 (BR554)
運用終了: -
編成両数: 2両編成43編成
編成:   Mc-Mc

台車配列:   B'2'+2'B'
軌間:     1435mm
全長:     54,27m
車幅:     2,75m
車高:     4,31m
最高運転速度: 140km/h
最高設計速度: 140km/h

利用する際のお得な情報

車内に響き渡るモーター音が非常にうるさく、高周波数のため耳が痛くなりやすい。乗車する際には車両と車両のつなぎ目方面に席を取ることをお勧めする。
タウナス地区で走行している車両はトイレが解放されていない。沿線の大半の駅にトイレが設置されているのでそちらを使用するしかない。

撮影者向け情報: 行先表示のLEDは切れにくいものの、ヘッドライト・テールライトが切れやすい。

製造経緯と歴史

LINT54プラットホームをベースに、Alstomはドイツ航空宇宙センターと「水素エネルギーを使用した鉄道車両の開発」を開始した。空気中の酸素とタンクに詰めた水素で電気エネルギーを生み出す目的で開発がすすめられた。
2017年にはプロトタイプが2編成完成し、同年4月に試運転を開始した。
2022年には量産車も完成し、徐々に定期運用に就き始めている。フランクフルト近郊での運用はさほどうまくいっておらず、運用開始初日から車両故障が続出している。偶然にも運用開始から4日目に指令所のストライキにより列車が運行できずバス代行になっているため、まだ大きくは目立っていない。

車両構造

2両1編成の構成で、2両目は下3桁が+500される。単独走行はもちろん、最大2編成連結での運用の許可が下りている。
編成の繋ぎ目部分に水素発電機が4つずつ搭載されている。水素で直接発電されると思われがちではあるが、モーターと発電機の間に蓄電池が挟まれている。通常の走行での回生ブレーキによる充電に加え、一定の電池残量で水素発電機が稼働する。量産先行車では各車両のターミナルごと、つまり4つずつしか制御できないが、量産車では合計8つの水素発電機を個別に動かすことができる。
水素タンクは各車両別々に存在するため、一編成の補填は2回の補充を意味する。満タンの水素タンクでは1000km走行できると製造会社は言っているものの、タウナス地区では350kmで空になる事案が発生している。

車両側面には化学記号が貼られている。クリックで拡大 Photo by: NITS-Center

量産車の車両構造は第4世代LINTと共通しており、ディーゼルモーターの設置場所に水素関連の機材が置かれている。第4世代LINTの特徴として、側面の壁が補強されたことによって座席の支えが床ではなく壁から生えていることなどが挙げられる。座席上の荷棚は奥行きは深くとられているものの、高さがさほどないためまともに使用できない。
ドア付近以外は手すりが存在しないため、通路側に面している座席のヘッドレスト部分にグリップがついている。
照明は既存車に比べてかなりまぶしい。
防犯カメラの設置はもちろん、車内各所に案内モニターが設置されている。

改造

登場から日数が経っておらず、目立つような大きな改造は今のところはない。

各仕様の違い

BR654 (プロトタイプ)

プロトタイプ落成当初は畜電車の500番台区分が存在しなかったため、既存のLINTプラットホームに合わせて600番台が振り当てられた。
ベース構造はLINT54の第2世代のため、量産車とは構造がかなり違う。主な違いはフロントガラス周りの形状、ライト形状や車体側面の壁の構造など。
先述の通り、水素発電機の仕組みの違いから各車両のターミナルごと、つまり4つずつしか制御できない。

BR554.0

evbのiLINT。クリックで拡大 Photo by: NITS-Center

既存のディーゼル車を置き換える目的で導入された。
一部停車駅はホームが短いため、2編成の重連運用ははみ出して停車する必要がある。
車内構造は普通と同じで、シートモケットもevbの柄となっている。

BR554.1

タウナス地区のiLINT。シートモケットが特徴的。クリックで拡大 Photo by: NITS-Center

タウナス地区の水素車両限定の特徴として、シートモケットに水素(H)と酸素(O)の化学記号が刻まれている。
なお、タウナス地区を走行した先代の車両(BR609、BR648)と同じくSalzgitterで製造された。Taunusbahnを走行する車両はこうして3世代とも同じ製造場所となる。

特殊編成

554 009 ~ 012 "Weltpremiere Wasserstoff"

水素車両だということをアピールするために、前面部分に水をモチーフとしたラッピングがされた。
なかでも011編成はこのラッピングの状態でドイツ全域を走り、一度の燃料で1175kmを走破した。

名づけられた106編成。クリックで拡大 Photo by: NITS-Center

554 106 "Bad Homburg"

554 106 編成はタウナス地区の街「Bad Homburg」と名付けられた。
車体側面に街の紋章と名前が表記されたのみで、それ以外はほかの車両と同じである。

在籍状況

BR554.0は製造が遅れているため、14編成出揃うはずだった2022年12月には営業運転に就くことが可能な編成は6本だけだった。
BR554.1は製造が遅れているため、27編成出揃うはずだった2022年12月には営業運転に就くことが可能な編成は9本だけだった。なお27編成が出そろったのは2023年11月末であったが、この時点で数編成が修正のため工場に送り返されており、フランクフルト近郊で27編成全てが揃うのはしばらく先のことと思われる。

運用情報

2022年12月現在、以下の路線で走行している。
BR554.0
・RB33 Buxtehude - Bremervörde - Bremerhaven ( - Cuxhaven)
BR554.1
・RB11 Frankfurt Höchst - Bad Soden
・RB12 Frankfurt HBF - Frankfurt-Höchst - Kelkheim - Königstein (Ts.)
・RB15 (Frankfurt HBF - ) Bad Homburg - Usingen - Grävenwiesbach - Brandoberndorf
・RB16 Friedberg - Friedrichsdorf
度々トラブルを起こしているため、運休率はやや高め。2023年12月現在、EVB車は補充のトラブルの関係上別の線区から旧型車両を持ってきて代走運転を行うほど。フランクフルト近郊では2023年一年通して問題が多発していたため、あまり良い印象は持たれていない。

情報ソース

・業務上の知識
・Alstom本社・製造工場訪問時(リンク)
・evbホームページ: https://www.evb-elbe-weser.de/startseite/ 最終閲覧:2022/12/15